徳山鮓
門上 武司
京都の「祇園さゝ木」というミシュランガイド三つ星の割烹店のカウンターには、中央にピザ窯が据えられている。きっかけは、多くの料理人たちと岡山の吉田牧場という料理人垂涎のチーズ作りの現場を訪ねたことだ。そこにピザ窯があり、中華の料理人は鶏の泥窯焼きを、日本料理の料理人はうなぎをアルミホイルで包み焼いたりしていた。うなぎの柔らかさには驚いた。その時の火入れの感覚が佐々木さんを激しく刺激したのである。
ピザ窯の特徴は、素材を包み込むように火が入る。つまりムラなく火入れが可能となり、時には薪の香りをつけることにもなる。また600度ぐらいの高温になるので調理時間が短くなる。また窯の中で置く場所を変えることで温度調節が自在になる、など種々の効果が生まれる。
ここ数年ピザ屋だけでなくイタリア料理店でもピザ窯を置くところが増えてきた。もちろんピザは焼くのだが、魚介や肉類を調理する料理人が色々チャレンジするようになったのである。さて、今回紹介する滋賀県余呉湖湖畔の和オーベルジュ「徳山鮓」は、発酵というキーワードで全国から多くの人たちに人気が高い。じつは数年前、ここにもピザ窯が導入された。その窯開きに参加したのだ。日本料理、フランス料理、イタリア料理、鰻屋、ピザ屋など多彩な料理人が集まり、ピザ窯を使い色々な料理を披瀝してくれた。その場でご主人の徳山浩明さんは「ピザ窯を導入したのは、これが魅力的な調理器具だと思ったからです。例えば炭火で焼いた食材をピザ窯で仕上げるとどうなるのか。反対の場合もあります。これはガスで調理したものでも同じことを試すことができます。香りのつき方や火入れの具合など、これまでとは違ったスタイルが生まれるのではと、これからいろんなチャレンジをしてみます」と話された。還暦を迎えても、さらに新たな世界に向かおうとする精神には頭が下がる思いであった。
「徳山鮓」は発酵だけでなく、余呉湖の恵みや周辺の山々で取れる山菜、キノコ、ジビエ類などいつ訪れても驚きと感動を覚えるのである。また息子さん二人、一人は調理人、もう一人は新たなビジネスの構築、そしてお嬢さんは和食の修業を重ね、そこでお婿さんを見つけた。つまり、徳山鮓ファミリーは料理人一家として、これからの日本の食(いや世界の食にも)の世界に色々な可能性を投げかけてくれる存在と言える。いわば盤石な体制で料理に向かう一家なのである。ご主人の徳山浩明さんと奥様の純子さんの力は偉大だ。
門上 武司
株式会社ジオード 代表取締役
フードコラムニスト
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1952年10月3日大阪生まれ。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。国内を旅することも多く、各地の生産者たちとのネットワークも拡がっている。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぐ役割を果たす存在。また大阪府や大阪市、京都府、京都市、奈良県など、行政が日本の食について海外に向け発信するシーンへの登場も多数ある。また、日本のあらゆるジャンルの料理人が設立した一般社団法人 全日本・食学会では副理事長を勤める。2002年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与される。著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。徳山鮓を訪ねる旅をご用意しております。
美食家が憧れの和のオーベルジュにて発酵の世界に魅せられた料理人の美食の数々をお愉しみください。※現在、本ツアーはキャンセル待ちとなっております。