”オーベルジュeaufeu(オーフ)”で過ごすひととき
門上 武司
いま、北陸がすごく熱い状況である。新潟、富山、石川、福井という地域で新たな食の旋風が吹いている、といっても過言ではない。
海外や東京、京都、大阪などで優れた技術を身につけたシェフが、縁あり自然環境に恵まれた地域で料理を作ることに、大きな喜びを見い出したとも言える。
またレストランだけでなく、オーベルジュという形態が増えていることも特徴の一つ。レストランでは食事の時間、多くても3時間ぐらいお客様の相手をするが、オーベルジュは少なくとも夜と朝の食事の世話をすることになる。よってシェフの思いを伝えやすくなるということだろう。そんなオーベルジュの中でも、現在最も注目を集めているのが石川県小松市の「オーベルジュ オーフ」。
シェフの糸井章太さんは「RED-U35」(日本最大の料理人コンテスト)の最年少優勝者でその実力は業界でも高く評価されている。
糸井さんが縁もゆかりもない小松で、何故オーベルジュの総料理長になったのか。「現地を簡単な気持ちで見に行ったのですが、周りの自然環境、その場が醸し出す空気感に魅せられすぐに決めました。また廃校になった小学校校舎を使うこと、僕の両親が教師だったので縁を感じたのかもしれません」と話してくれた。
小松に居を移し食材や生産者と触れる度に愛着も湧き、小松で仕事をする意味合いを深めていったようだ。糸井さんの料理技術の高さは食業界でもっとも有名である。その技術と地元の食材や伝統料郷土理が結びついたところが、今の時代の優れたところでもあり、これまでの新鮮な食材だけに注目していたこととの大きな違いである。
例えば、糸井シェフが注目し、生み出した料理に「こんか鯖」(鯖を糠漬けにした保存食)。鯖を一晩糠につけ、その風味や酸味を移す。糠を混ぜた生地に包んで球体にして手で味わう一品。ソースにチーズなどを加え西洋風の仕立てにする。こんか鯖という保存食が見事な現代料理に蘇ったのである。つまり、その土地では当たり前と思われていた郷土料理や食材に、糸井さんならではのフィルターを加えることで、全く異なる魅力ある料理となるということである。
オーベルジュとしての歴史はまだ一年余だ。これから、もっともっと地域と密接な交流が生まれ、地元の食材、生産者などとの絆が深まることでオーベルジュとしての魅力や価値は高まっていくのだろうが、現在の糸井章大さんの料理が感動を呼ぶこと間違いなし、と断言できる。定点観測をしたい最右翼である。
門上 武司
株式会社ジオード 代表取締役
フードコラムニスト
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1952年10月3日大阪生まれ。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。国内を旅することも多く、各地の生産者たちとのネットワークも拡がっている。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぐ役割を果たす存在。また大阪府や大阪市、京都府、京都市、奈良県など、行政が日本の食について海外に向け発信するシーンへの登場も多数ある。また、日本のあらゆるジャンルの料理人が設立した一般社団法人 全日本・食学会では副理事長を勤める。2002年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与される。著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。