老舗料理旅館「茶六別館」でいただく
名物ぶりしゃぶとコッペのオリジナル丹後冬膳
海の京都という言葉があります。
京都は海から遠い、というイメージが強すぎて、なかなか浸透しませんが、京都に生まれ育って長い時間を経た身としては、強く実感します。
三方を山で囲まれた京都盆地の北側にそびえる北山を越せば、やがて日本海へと辿れます。雅な都からひと山越えて、鄙の海辺へ。この行程もまた味わい深いのです。
日本三景のひとつに選ばれるほど、風光明媚な海の眺めを擁する天橋立は、れっきとした京都府ですし、日本海に面した海岸線は、丹後半島をぐるりと取り囲む長さを誇ります。
その美しさもさることながら、海の京都の最大の魅力は、多種多様な海の幸の豊富さにあります。
冬の蟹をはじめとして、日本海は海の幸の宝庫として名高く、その種類も豊富なら、厳しい潮の流れに育てられた魚介は、極めて上質であることも知られています。
そんな海の幸を味わえ、かつ京都の奥座敷的存在で、鄙の地にありながら雅な空気をも湛えている宿が宮津にあります。
その名を『茶六別館』と言い、創業三百年を数える老舗旅館ですが、温泉も備え、近年リニューアルした客室の快適さも評判を呼んでいます。
十一代目の主人、茶谷六治が和風建築の粋を極めようと国内を見て回り、その成果を結集させた館内は実に見応えがあります。
泊まれる美術館とも称される建築や調度は、目のごちそう。そして瀟洒な庭を眺めながら湯浴みを愉しめる宮津温泉は、身体へのごちそう。そして、食通の舌を喜ばせるほんもののごちそうと、三段階の愉しみを味わえる『茶六別館』への旅は、極上のひとときとなること間違いなしです。
柏井 壽
作家・エッセイスト・日本味の宿 顧問
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1952年京都生まれ。
歯科医師でありながら、旅、食、宿、京都をテーマにした小説、エッセイを多数執筆。
著作の累計部数は、百万部を超える。代表作は「日本百名宿」、「鴨川食堂」など。