旅館 紅鮎
柏井 壽

京都や奈良に比べて地味に見えますが、近江は日本の歴史が色濃く残る土地で、観るべきものがたくさんあります。
その近江は琵琶湖を中心として、湖北、湖南、湖西、湖東と大きく四つの地域に分かれ、それぞれが個性を競い合っています。
近江をこよなく愛した白洲正子は、なかでも湖北に最も強く魅かれたといいます。
湖北は別名を十一面観音の里とも呼ばれ、古寺名刹が建ち並ぶ祈りの地でもあります。そして竹生島浮かぶ湖には野鳥が飛び交い、豊かな自然にも恵まれていますので、目も心も芯から癒してくれます。
そんな湖北を愉しむのに格好の宿が、長浜の湖岸に建っています。

長浜から北へ湖岸沿いに進むと、よくぞここまでギリギリに建ったものだと、感心するほどの場所にある『紅鮎』が見えてきます。
まるで琵琶湖に浮かぶかのように建っていますから、絶景は約束されたも同然です。
湖の東側に建っているので、琵琶湖に沈む夕陽を眺めることができます。しかも温泉に浸かりながら見られるのですから。温泉好き、絶景ファンには堪えられません。客室に備えられたお風呂もいいですが、大浴場の露天風呂から眺める夕陽は唯一無二です。

湖面に水鳥が飛び交い、竹生島が琵琶湖に浮かび、その向こうに夕陽が沈む。露天風呂からその光景を眺める。この宿でしか得られない体験です。

湯上りの愉しみは、湖の幸や近江ならではの食材をふんだんに使った夕食。
一階の食事処で供される夕食は、京風会席をベースにし、近江牛や鴨、鮎、松茸など四季折々の食材を主役に据える料理です。特筆すべきは脇役でもある近江の野菜。近隣の農家が育てた野菜は滋味あふれる味わいで主役を引き立てます。
年々評価の高まる近江の地酒と一緒に味わえば、至福のひとときを過ごせます。琵琶湖随一の湖畔の宿をぜひお愉しみください。

柏井 壽
作家・エッセイスト・日本味の宿 顧問
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1952年京都生まれ。
歯科医師でありながら、旅、食、宿、京都をテーマにした小説、エッセイを多数執筆。
著作の累計部数は、百万部を超える。代表作は「日本百名宿」、「鴨川食堂」など。
