徳ハ本也
門上 武司

ます「徳ハ本也」という店名から個性的である。
「とくはもとなり」と読む。徳を積むのを根本とし、励むことがいちばんという意味であり、中国古典の「大学」の一説からである。令和5年12月8日開店で、翌年春のミシュランガイド早々の一つ星を獲得。今年の食べログアワードでは見事にゴールドを受賞し、京都を代表する割烹の一翼を担う存在といえる。「和久傳」での修業を礎としながら、店主の松本信也さんの哲学と美学がしっかり息づいているのが人気の要因だと感じる。
また、松本さんは一個人の料理人として技術が優れているという範疇をはるかにこえ、チームで仕事をすることの大切さを熟知し、チームだからこそ可能となる料理を提供するのは、確実に割烹の次世代を切り拓いてゆく料理人の先陣を切っている。

その一つの例としてカウンターの存在がある。カウンターの要諦はライブ感。その場で調理の工程が楽しめるという臨場感も味覚の大きな要素となる。食べる側は調理の流れを具に観察することができるだが、反対に料理人もまた食べる側の様子をチェックすることになる、つまり食べる側一人ひとりのスピードや表情によって調整がきくということでもある。その役割を松本さんは的確に判断ができ、即座に対応できるというのもすごいことだと思う。

また、ここのカウンターでの大きな魅力は、カウンター内一番に奥に設えられた焼き物の囲炉裏スタイルの焼き台である。炭を使う調理はかなり多い。しかし、囲炉裏スタイルとなると極端に少ない。真ん中に炭が熾り、その周辺に串に刺した食材を並べ、角度や方向など微妙に調整を施しながら焼いてゆく。たとえば、夏の鮎なら鮎の表面が次第に黄金色に焼けてゆく様子を見ながら食事が進んでゆく。その麗しい変化と、あの一本が自分の手元にやってくるのかというワクワク感は、他の割烹では味わえない体験となる。

鮎の頭、骨、身などを最適な火入れをする。これは非常に技術レベルの高い仕事である。それを松本さんは割烹内のカウンターで取り入れたことは、焼き場を担当するスタッフとのチームワークがなければなしえないことだ。

門上 武司
株式会社ジオード 代表取締役
フードコラムニスト
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1952年10月3日大阪生まれ。関西の食雑誌『あまから手帖』の編集顧問を務めるかたわら、食関係の執筆、編集業務を中心に、プロデューサーとして活動。「関西の食ならこの男に聞け」と評判高く、テレビ、雑誌、新聞等のメディアにて発言も多い。国内を旅することも多く、各地の生産者たちとのネットワークも拡がっている。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者をつなぐ役割を果たす存在。また大阪府や大阪市、京都府、京都市、奈良県など、行政が日本の食について海外に向け発信するシーンへの登場も多数ある。また、日本のあらゆるジャンルの料理人が設立した一般社団法人 全日本・食学会では副理事長を勤める。2002年日本ソムリエ協会より名誉ソムリエの称号を授与される。著書に、『門上武司の僕を呼ぶ料理店』(クリエテ関西)のほか、『スローフードな宿』『スローフードな宿2』(木楽舎)、『京料理、おあがりやす』(廣済堂出版)等。
