民藝の町 越中八尾の伝統行事 おわら風の盆 本祭
柏井 壽
諸説ありますが、富山という地の語源は、「多くの山が連なる、富める山の国」の意からだそうです。
富山県内にはあちこちに高低さまざまな山が点在していて、そのなかで県南西部に聳える牛岳は、見通しの良い場所にあって、よく目立つ山です。その東麓に佇む町、越中八尾はなだらかな坂を持ち、情緒豊かな風情を漂わせることで、多くの人気を呼んでいます。
越中八尾の名を高めているのは、毎年九月の初旬に行われる祭り『風の盆』ですが、その祭の舞台として、これほどふさわしい処はありません。
石畳のゆるやかな坂道は長く続き、道の片側には〈えんなか〉と呼ばれる用水路を細いせせらぎが、さらさらと流れ、独特の景観を生みだしています。
その代表が諏訪町本通り。
通りの両側に建ち並ぶ家々は、まばゆいばかりの白壁が特徴的で、伝統的な屋根瓦と格子戸が、日本の原風景とも呼びたくなるような、落ち着いた風情を醸しだしています。
飛騨の山々から富山へとのびる、八つの尾根が合流する辺りにあることから、八尾と呼ばれるようになったと言われ、それゆえ古くは幾筋もの街道が交わり、蚕の繭や生糸の取引などで大いに栄えました。
九月初旬、二百十日ごろは台風の季節です。収穫前の稲が風の被害に遭わないよう、豊作を祈って行われてきた祈願の祭りを『風の盆と呼ぶようになり、哀愁を帯びた音楽と踊りは、しみじみとした深い感動を与えてくれます。
初めて訪れても、どこか懐かしさをおぼえる町、越中八尾は季節ごとに訪ねてみたいところです。
夏の終わりを告げる頃、越中八尾で行われる「おわら風の盆」。三百余年の歴史を持つ伝統行事は、越中八尾の誇りであり、町民たちの心が最も熱くなる3日間です。今回の旅では特別に、越中八尾の鏡町にある山元食道にて、福鶴酒造の地酒と心温まる家庭料理をご堪能いただき、その後はお店を起点に町流しを自由にご覧いただけます。ぜひおわらの幻想的な世界に心ゆくまで酔いしれてください。
写真:©宮下 裕介
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柏井 壽
作家・エッセイスト・日本味の宿 顧問
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1952年京都生まれ。
歯科医師でありながら、旅、食、宿、京都をテーマにした小説、エッセイを多数執筆。
著作の累計部数は、百万部を超える。代表作は「日本百名宿」、「鴨川食堂」など。