美味しい旅へようこそ
美味しい旅へ
旅にはさまざまな愉しみがありますが、なんといっても一番の愉しみは、その地ならではの美味しいものを食べることでしょう。ときによっては、美味しいものを食べるためだけに旅をすることだってあるぐらいです。
旅に関する本を何冊か出版していますが、そのうちのいくつかは、旅ならではの美味しいものや、旨い店を紹介するガイドブックです。たとえば、2012年に出版した「極みのローカルグルメ旅」がその典型です。
この本では、いささかマニアック過ぎるほど、あまり知られていない地方の美味しいものをたくさん紹介していますが、ここで〈ローカルグルメ〉という新しい言葉を使ってみました。当時は、今ではご当地グルメという言葉を使われるようになった、お手軽な料理をB級グルメと呼んでいました。
主に麺類やライスものがそれです。たとえば長崎のトルコライスだとか、金沢のハントンライス、新潟のイタリアン焼きそばなどです。なぜその地でこの料理が生まれ、どのようにして今に伝わっているのか。現地調査しながら食べてきた記録をまとめた本ですが、8年経った今読み返してみても、なかなかおもしろいと自画自賛しておきましょう。
ことほどさように、旅と美味は切っても切れない関係にあります。
もちろん名所旧跡を訪ねたり、絶景ポイントを巡ったり、あるいは美術館で名画や工芸品を鑑賞したり、はたまた温泉で癒されたりも、旅のだいじな要素であることは間違いありませんが、そこに美味しいものがなければ、画竜点睛を欠く、と僕などは思ってしまうのです。
海の幸、日本のすばらしさ
美味しいものあってこその旅と言って、皆さんは、どんな食を思い浮かべられるでしょうか。
四方を海に囲まれた日本なら、やはり第一は海の幸でしょうか。北は北海道から、南は沖縄に至るまで、日本列島を取り囲む海には、それぞれ特徴的な海の幸があり、それを目当てに旅をする方もきっとたくさんおられることでしょう。
夏の北海道なら、真っ先に毛蟹が思い浮かびますね。冬のズワイガニとはまた違って、夏の毛蟹はどことなく涼やかですね。夏牡蠣やホタテなどの貝類もいいですね。
海の幸以外で、夏の北海道で忘れてならないのはジンギスカンです。広々とした大地を持つ北海道で食べるジンギスカンは格別の味わいです。それと一緒に焼くジャガイモなんかも、いかにも北海道という感じがして、ふだんより美味しく感じるものです。
(写真は丹後半島のおおとり貝。岩カキとともに初夏の風物詩で人気が高い)
季節の風物詩(食)
おなじ海の幸でも、瀬戸内海だとガラリと様相が変わりますね。淡路近辺だともちろん夏はハモです。京都の祇園祭も、大阪の天神祭りも、どちらもハモ祭と呼ばれるほど密接なつながりがあったのですが、残念ながらどちらも今年は神事のみが行われ、多くの人の目を愉しませることはできませんでした。それでもハモはちゃんと夏の風物詩としての役割を果たしてくれています。夏場に瀬戸内近辺を旅行すれば、きっとハモ料理の一品や二品は出てくることでしょう。よく冷えた日本酒と合わせれば、もうたまりませんね。
(写真は京都祇園祭の時期に提供されるハモ料理。冷涼感漂うこの時期ならではの逸品)
夏の京漬物
旬の美味しいものと言えば、最近は野菜も人気です。四季それぞれに美味しい野菜が栽培され、ご当地野菜とでも呼びたくなるほど、日本各地に美味しい野菜があります。なかで一番人気と言えばやっぱり京野菜でしょう。
今の野菜ブームのさきがけとなったのが京野菜であることは、自他ともに認めるところ。夏の京野菜を代表する賀茂茄子をはじめとして、万願寺唐辛子や、山科茄子などを使った、いわゆる京のおばんざいを食べるために京都を旅する方もたくさんおられます。
そんな夏野菜を使った京漬物も夏には恰好ですね。暑さで食欲が落ちても、さらさらとお茶漬けなら食べられます。そこに京漬物が添えられていれば何も言うことはありません。
夏バテ防止に
淡白なものが好まれるいっぽうで、夏だからこそ、こってりとしたお肉を食べたい、という方も少なくありません。かく言うぼくもそのひとりで、夏に暑くなればなるほど、お肉を食べたくなり、焼肉やステーキの頻度が高くなります。
豚肉や鶏肉もいいですが、関西人にとってのご馳走と言えば牛肉ですね。
牛肉も日本各地に銘牛と呼ばれる、美味しい牛肉があって、それを目当てに旅するのも愉しいものです。
人気があるのは三重の松阪です。見目麗しい霜降り肉のすき焼きを食べるために松阪を旅する。肉好きの憧れ旅でしょうか。
近江牛もいいですね。滋賀県の近江八幡、彦根から長浜辺りがねらい目、美味しいお店や宿が目白押しです。
丹波牛も捨てがたいところです。銘牛の故郷とも言える丹波地方から神戸あたりまで、美味しい神戸牛求めての旅もいいものです。
さて、お気づきになったでしょうか。松阪、近江、丹波と三カ所とも広域関西圏ですね。そしてこの三カ所を線で結ぶと三角形ができ、その中心にあるのが京都なのです。これを僕は銘牛トライアングルと呼んでいます。なので、産地ではありませんが、美味しいお肉を食べるために京都を旅するというのも、アリなのです。
お取り寄せの愉しみ
こうして美味しい旅をご紹介してきましたが、なかなか思うにまかせることができない状況では、お取り寄せというのも妙案です。その地のオーソリティや旅の達人が選んだ名産品を取り寄せて、自宅で旅気分を満喫するのもいいものです。選りすぐりという言葉がぴったりはまるお取り寄せも、この夏ならではのお奨めです。ぜひ、みなさんも「美味しい旅」をご自宅あるいは旅先で愉しんでください。