目を凝らせば 耳を澄ませば
旅にそなえて
なかなか終息のきざしが見えませんが、そんななかで今夏から〈GO TOトラベルキャンペーン〉がはじまります。
東京発着は除外されましたが、旅行をすると、その代金のいくらかを国が補助してくれる取組。これはぜひとも利用したいですね。
旅ほど人生を豊かにしてくれるものはありません。しかしながら疫病を蔓延させるリスクが多少なりとも伴うということで、長くみんなが自粛してきたわけですが、いつまでも旅をしないわけにもいかないということです。
ただし疫病が完全に収束したわけではありませんから、充分な注意が必要です。よく言われるように〈三密〉は絶対に避けなければいけませんし、手洗いをメインにした感染予防にも万全を期したうえで旅に出たいものです。感染予防は万全を期して
そのための方策については、交通手段も宿泊施設も万全の態勢を整えているはずです。当然のことながら、神姫バスも万全の上に万全を期し、スタッフもお客さまも感染しないように、あらゆる方策を講じています。
そう考えると、日常よりもむしろ、旅先のほうが安全なのかもしれませんね。
もちろん体調の思わしくないかたや、重病を抱えておられるかた、健康面に不安を抱えておられるかたは、用心されるに越したことはありませんが。
かく言うぼくはすでに旅を再開しています。公共の交通機関を使って、宿泊施設に泊まって、その地の飲食店で食事もしました。
その際に、どんなことに気を付けているかと言いますと、やはりそれは基本的な感染予防、それに尽きると思います。乗り物に乗っているあいだや、人との距離が近くなるときは、必ずマスクを着用します。そして、なにかアクションを起こすたびに、手洗いをします。水道設備がないときのために、除菌スプレーや滅菌ジェル、シートなどを持参し、それを使うのはエチケットでもあります。
さすがに食事中はマスクを外しますが、大きな声で会話をしたり、近距離で向かい合うことも、極力避けるようにしています。
そんなに神経質になると心底旅行を愉しめないのではないか、と言われることもありますが、慣れてしまえば、これまでと何ら変わることなく旅を愉しむことができることを、僕は実証しています。どころか、コロナ以前よりも、旅の愉しみ方が深くなったように感じることさえあるのです。(写真は神姫バス真結ツアーのサービスエリアでの様子。このようにツアー中でも車内消毒を徹底している。)
目を凝らせば 耳を澄ませば
一例を挙げましょう。
とある目的地へ向かう車内で、これまでなら同行者と和やかに会話を交わすところですが、マスクを着けていることもあり、黙って窓の外を見ることにしました。
すぐに退屈するかなぁと思っていましたが、意外なことに、退屈するどころか、景色を眺めるのに夢中になってしまいました。
慣れた道筋なのですが、よく見てみると、これまでまったく気付かずにいた風景が、なんとも美しいことに目覚めたのです。
鎮守の杜があって、その奥に建つ古い神社は、まるで映画に出てきそうな、侘びた佇まいです。その参道を箒で掃いているいるのは巫女さんでしょうか。すぐ傍で神主さんらしき男性が焚火をしています。一瞬で通り過ぎたのですが、まるで古い映画のワンシーンのようでした。
もしもこれまでどおり、おしゃべりに夢中になっていたら、きっと気付かなかった光景だろうと思います。
それから程なくして、田んぼが続く広い平野に出ました。これも今までだったら、ただただ田んぼが続いているな、としか思わなかったのですが、あぜ道に座っているふたり連れに目が留まりました。
きっと農作業中のご夫婦なのでしょう。肩をたたき合って笑っています。もちろん会話の内容など聞こえるはずもないのですが、笑い声が聞こえてきたような気がしました。そして僕が小説家だからかもしれませんが、ふたりの会話を想像し、まぶたが熱くなってしまったのです。
こんなこともありました。ホテルを出て会食のレストランへ向かおうとしたのですが、少しでも密を避けようと、地下鉄2駅分を歩くことにしました。マスクをして地図を見ながら歩いていると、どこかから鳥の鳴き声が聞こえてきます。都会の真ん中で、はてどんな鳥がいるのだろうと、耳をそばだて、辺りを見回すと、つばめらしき鳥の姿が横切りました。その行方を目で追うと、どうやら巣があるようなのです。足を忍ばせて、そっと近づいてみると、酒屋さんの軒下につばめの巣があったのです。よく見るとつばめの子どもが三匹、口を開けて鳴いていました。
そう言えば、むかしはあちこちで、つばめの巣を見つけ、巣立ちを見守ったものですが、最近はついぞ目にしなくなりました。
日常では時間に追われるあまり、旅においては、先を急いだり、ほかのことに気を取られ過ぎて、ゆとりをなくしてしまっていたことに気付きました。
新しい生活様式は、旅にもいくらかの制約を加え、それゆえ旅を遠ざける方もおられるようですが、こうして実際に旅を再開してみると、以前より五感を研ぎ澄ますことになり、新たな発見につながることが分かりました。
これからの旅は、頭ではなく、五感を働かせ、第六感までを活用することで、新たな発見につながるのです。さぁ、旅に出ましょう。もちろん感染予防を怠りなく。(ツアー中の風景、景色、時間帯によってはその時にしか見れない光景も。発見しようと思えばいろいろな旅の愉しみ方がある)