「鮭」
門上 武司
父親は北海道出身であった。私の本籍は北海道の富良野という処であったが、結婚を機に大阪に移した。初めて北海道の地に足を踏み入れたのは小学校六年生の夏休み一人で北陸経由、当時は青函連絡船があり、それに乗り札幌までの旅であった。札幌では親戚が待ち受けており、一週間ばかり札幌を中心に周辺を回った。以来、北海道の魅力にとりつかれ、ずっと年に2回ばかり出かけるのが習慣となっている。
札幌の尊敬するフランス料理店のシェフに「一番いい季節はいつですか?」と尋ねると「冬です。1月末から2月初め!」と言われた。その言葉に従い数年2月1日は札幌にいることが続いた。ある時は美瑛から札幌、小樽経由で真狩村まで出かけたことがあった。美瑛や真狩村は一面真っ白の銀世界である。視界に白以外の色彩が入ってこないという体験をしたのは初めてで、大きな感動を覚えたことはずっと記憶に残っている。
この季節はジビエが極めていい状態で入荷される。エゾシカのうまさを知ったのもこのレストランであった。その時に供された百合根のソテーは驚愕。大きな百合根を半分に切りソテーをして塩を振っただけなのだが、百合根の概念を変えたというぐらいの感動を覚えたのだ。口に運んだ時の甘い香りとホクホク感はただものではないと感じた。そして口の中で広がる甘みとコクは踊りだしたくなるほどであった。それまでは茶碗蒸しの入っている百合根や日本料理で登場する百合根饅頭しかインプットはなかったが、この北海道の百合根を知ってからは、季節になると大型の百合根を取り寄せるようになり、多くの人達に喧伝することが多くなった。
そして魚料理でサーブされたサーモン。サーモンは素材の質がまず問われるが、このレストランでは軽くクリアである。だが、最も重要な技術は火入れなのだ。これは生のサーモンの場合で、塩鮭は別の技術となる。生の場合は、火が入りすぎると身がパサパサになり、旨みも味わいも半減するのである。ここで登場したのがサーモンのコンフィ。コンフィとは低温の油の中でじっくり火入れをするフランス料理のテクニック。そのコンフィされたサーモンのねっとり感と凝縮した旨みには、舌を巻いたのであった。食材を知り尽くし、かつその味わいを最大限引き上げる技術があってこそのメニューである。
またある時は、スモークサーモンの香りをまとったシャーベットがテーブルに運ばれ、食事を一緒にした仲間が大きな笑顔になったことも懐かしい記憶である。そんなレストランがあると思うところから旅の楽しさは始まっている。
旬の鮭をご賞味いただける企画を真結の旅にてご用意しております。「地魚」「酒」「発酵食」「米」といった、新潟ならではのガストロノミーの旅に出かけませんか?