地名で愉しむ京都旅 ~いよいよ旅のはじまりへ~
柏井 壽
地名で愉しむ京都旅7
令和三年の九月末で、日本中のあちらこちらに発令されていた、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が解除され、ようやく日本は日常を取り戻しつつあります。
とは言ってもコロナがゼロになったわけではありませんので、しばらくは緊張感を持って暮らしていかねばなりませんね。
とは言え、やはり制約がなくなるのはうれしいものです。旅好きにとっては、気兼ねなく旅に出られるのは、至福と言ってもいいほどの喜びです。
というわけで、ずっとバーチャル旅の愉しみを書いてきましたが、それも今回でいったんピリオドを打つことにします。
現実に旅をするのが難しいなか、さまざまな形でバーチャル旅の愉しみを書いてきました。ここしばらくは、地名で愉しむ京都旅と題して、京都の町名や通りの名前から、京都の歴史を辿ったり、不思議を見つけてきました。その最終回となる今回は、縁起のいいお話にしたいと思います。
縁起物といって、まず頭に浮かぶのは七福神ではないでしょうか。
恵比寿さま、大黒さまをはじめとして、七つの福神さまを信仰することで、しあわせが訪れるという七福神信仰は、京都が発祥と言われています。
一⽉一⽇の夜、七福神さまが宝船に乗った絵を、枕の下に⼊れて眠ると、その年一年間は幸運が訪れると⾔い伝えられています。
そして、京都のお寺や神社におわします七福神さまを順番に参詣する、〈都七福神めぐり〉もお正月に行われ、多くの善男善女で毎年にぎわいを見せています。
その七福神さまがどこにおられるかというと、次のとおりです。
恵比寿さまは『ゑびす神社』、大黒さまは『松ヶ崎大黒天』、毘沙門天さまは『東寺』、弁財天さまは『六波羅蜜寺』、福禄寿さまは『赤山禅院』、布袋さまは『万福寺』、寿老人は『革堂』と、京都のあちこちに点在しておられます。お正月に限らず、順に巡ってみるのも愉しいですね。
もちろんこの七つは右代表といったところで、ほかにも京都のあちこちの寺社には、七福神さまがおられます。そのおかげで、七福神さまにちなんだ町名や地名、通りの名前が、今も京都の町に残っています。
もっともよく知られているのが、夷川です。
二条通の一本北の通りは夷川通と名付けられていますが、付近にはゑびす神社はありません。なぜ夷川と呼ばれるようになったかと言えば、古くこの辺りに恵比寿さまが流れつかれたからです。それは今の『若王子神社』の摂社である『恵比須神社』のことだと言われています。
そして夷町という町名は、表記は少しずつ異なりますが、上京区、中京区、東山区、下京区のあちこちに存在しています。恵比寿信仰が、京の街衆に深く根付いていたことを表していて、実に興味深いですね。
大黒町という町名も、京の街のあちこちに散見されます。
よく知られているのは、河原町三条を下った一帯で、三条通を挟んだ北側は恵比須町なので、恵比寿さまと大黒さまが並ぶという縁起のいい界隈になっています。
この辺りは幕末動乱の舞台となった場所であり、多くの観光客がお越しになりますが、まさかここがそんな縁起のいい場所だとはお気付きにならないでしょう。地名を辿ると、目に見えない姿が浮かんできます。
何かしらの理由で、実際に旅に出られないときは、地名を辿って思いを馳せるのも愉しいものです。
(写真のように、これからは安心して旅に出かけられますように)