「鮎料理」
フードコラムニスト 門上 武司
フードエッセイスト門上武司氏による『旅の食』をテーマにした連載エッセイが2021年6月より開始しました。第一回は「鮎料理」。毎月、異なる食をお題にとっておきのエピソードをお届けします。
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「鮎はだいたい八月の第一週過ぎがいいですね」と岐阜の「川原町泉屋」の主人・泉善七さんは話してくれた。この店は、全国の食いしん坊や料理人が夏になると、泉さんが焼く鮎を味わいにやってくる名店である。
「鮎は天然と養殖では串の打ち方が違います」「岐阜の色々な川によって鮎の味は全く違います」など、いつも示唆に富んだ言葉を放つ料理人。訪れる人たちは「川によって鮎の味の違いが分かるかな」と不安げに食べるのだが、「これなら誰でもわかるね」と食後は笑顔で語るのであった。初めて「川原町泉屋」の鮎を食べたのはずいぶん前のこと。九月の半ばを過ぎていた。これもまた岐阜の中国料理の名店「開化亭」(現在は長男が店を継ぎ繁盛中・先代は銀座で「FURUTA」という中国料理店を開き三年先まで予約が詰まっているという)食事をしていた。店頭の駐車場で泉さんが大きな炭台で鮎を焼いていた。およそ20センチは超える鮎。中華料理が終わった後、なんと中骨も全く気になることなくペロリと平らげてしまったのだ。「遠火の強火でじっくり焼き上げています」との説明であった。以来、泉さんの鮎が強烈にインプットされたのである。
そんな泉さんの鮎を食べる旅をある雑誌の旅ページで企画をした。メインは「川原町泉屋」の鮎。だが、どうしても「開化亭」も加えたいという食い意地が頭をもたげた。先代にその旨を伝えると「少し時間をください。鮎のチャーハンなどは簡単ですが、鮎は日本料理の鮎の塩焼きがいちばん美味しいと思います。それを超えるモノでないとね」と言葉を濁された。数日後「お引き受けします」との返事が届いた。取材当日「開化亭」で登場したのは「鮎の春巻き」であった。姿は鮎のように成形されていた。口に運ぶと春巻きのサクッとした皮があり、続いて鮎の香ばしくもコクのある味わいが訪れ、きちんと肝の苦味も感じることができた。塩焼きに決して引けを取ることのない逸品だと感銘を受けた。
聞くと鮎を三枚におろし、中骨と頭は素揚げ、肝はオイスターソースと混ぜる。それらを春巻きの皮で包みこみ揚げたというのだ。料理人の想像力に脱帽の瞬間であった。その後、この手法を参考にする料理店がどれだけ増えたことか。
鮎を求めて企んだ旅であったが、思わぬプレゼントをいただいたことになった。
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真結ツアー企画担当者より…2022年初夏に岐阜県「川原町泉屋」の鮎を堪能するプランを企画致します。皆さまどうぞお楽しみにお待ちください。今年の《鮎》を味わえる企画ツアーは下記よりご覧いただけます。
◇ 貴船川床料理「ひろや」でいただく鮎の石庭盛り 100年の年を刻む「長楽館」ティータイム
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